移動支援でつながりを強める

蓬田村たすけあい交通(青森県蓬田村)

青森県蓬田村は、青森市に隣接する人口2,682人(令和3年2月末日)の村です。2018年度に実施した全世帯対象のアンケート調査から、将来にわたって移動の不安を訴える声が多くありました。第1層協議体との協議をふまえて公共交通空白地有償運送に取り組むことになり、2020年8月に「蓬田村たすけあい交通」(以下、たすけあい交通)が誕生しました。

一番の不安は、「担い手をどうするかだった」と村社会福祉協議会の生活支援コーディネーター、田中利明さんは振り返ります。チラシをつくり、回覧板で募集をしても、応募はゼロ。そこで、定年退職後の男性を1軒ずつ訪ね、協力を要請すると、「チラシを見て興味を持っていた。そのくらいならば協力できる」と2つ返事で快諾を得ます。さらに、地元のたまねぎ生産組合の30~40歳代の6人も協力することになり、現在11人のボランティアが村内や隣接市町までの送迎を担っています。2020年8月末~2021年3月末まで、利用者延人数130人、運行回数90件の利用がありました。

「当初は通院や買いもの支援での利用を想定していた」と田中さん。あるとき、認知症の夫の通院でたすけあい交通を利用している妻から、「コロナで楽しみにしていた趣味の会もお休みになり、家で夫と二人きり。出かけることもできず、ストレスを抱えている」という声を聞きます。趣味の会のメンバー全員に話を聞くと、全員がその人のことを心配し、電話をかけたりおすそわけをしたりしながら気にかけているけれど、つどっておしゃべりができないことを憂いていました。新型コロナウイルスの感染不安だけでなく、80歳代後半のメンバーにとって、つどっていた公民館まで歩いていくことが難しくなっていたため、つどいが休止されていたのです。田中さんも一緒に感染予防対策に取り組み、公民館までたすけあい交通を利用してもらうことで、2020年12月、久しぶりに8人のお仲間が公民館につどいました。お互いの体調を気遣うなど、めいめいおしゃべりを楽しみ、ストレスを発散。メンバーの一人からは、「家に閉じこもっていると、気持ちも内に、内にとこもってしまう。外に出てみんなでおしゃべりすることは本当に楽しいね」という声も聞かれました。

ほかにも、「昔お世話になった人が亡くなり、仏壇に手を合わせたいとずっと思っていた」という90歳代の女性が利用するなど、柔軟な使い方をすることで利用者のつながりが保たれたり、その人の願いがかなえられるようになりました。

さらに、一人暮らしの高齢者からこんな声が寄せられたと言います。「近所の一人暮らしの人が外出せずに閉じこもっているよう。声をかけて一緒に買いものに行きたい」と。そうした声にももちろん対応。料金は人数割りとし、利用者の金銭的な負担だけでなく送迎ボランティアの負担も軽減できるようになりました。買いものに行く間の車内は、さながらサロンのよう。声をかけ合い、外出の機会をつくることで健康促進にもなり、高齢者同士のつながりも強くなっています。

村の課題からスタートしたたすけあい交通が、課題だけでなく望む暮らしを実現するための手段となり、移動にとどまらないさまざまな相乗効果を生み出しています。

 

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